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2019.02.27 Wed

【開催レポート】いりこと、燗と、スペシャリテ

去る2/24(日)、

香川のいりこ屋さん「やまくに」の山下浩一さん・加奈代さん、

南青山の日本料理店「てのしま」の林亮平さんを先生に迎え、

【いりこと、燗と、スペシャリテ〜出汁とりから晩酌まで〜】を開催しました!

前半は「やまくに」の加奈代さんから、そもそもいりことは?をレクチャー。

成長段階によって、大羽・中羽・小羽と呼び分けされているのだそう。

なかでも中羽の『銀付いりこ』は、うろこがついた状態で、栄養や旨味が詰まっている最高級のいりこ!

左が「いりこのおっちゃん」こと、お父さんの浩一さん。

一家総出で営む、小さないりこ屋さんです。

一晩水出ししておいたお出汁を、飲み比べ。

質の違い、処理の違いで、どれくらい味が違うのか体験してもらいました。

「やまくに」のこだわりは、瀬戸内で獲れたいりこを、

機械ではなく手作業で選別していること。

機械で選ると、必ず質の悪い個体が混じってしまいます。

そうすると、まわりの良い個体まで悪変してしまうのだそう(腐ったミカン、と同じ原理)。

さらにもう一つの理由として、機械にかけることでいりこに傷がつき、

せっかくの良い個体が酸化して、悪くなってしまうのだそうです。

だから機械ではなく、手で。

本当に大変な作業ですが、そうすることで、質の良いいりこだけをお届けできるのだそう。

出汁とりの前の、いりこの処理。

頭を取って、内臓を取って、ぱかっと割って。

それを、フライパンで煎ります。焦げないように、パチパチ音を逃さないように。

途中でぐっと香りが広がって、美味しそう〜!と皆んなため息。

この状態から、お出汁をとります。

もちろんこのまま食べても、めちゃくちゃ美味しい!

特に、頭の部分には旨味が詰まっており、皆んなでサクサク味見しました。止まらない美味しさ。

さて、その間に「てのしま」林さんは、酒のアテである一品を作ってくださっています。

おっちゃんが先に味見!

「め、めっちゃウマイ…」と絶句していました。笑

左が林さん。

「菊の井」で17年間修行され、海外での仕事も数々経験された、和食のスペシャリスト。

日本料理の敷居を下げて、それぞれの土地や文化に根付いた食材・食事をみんなで楽しみたい、と

南青山に「てのしま」を昨年オープンされました。

おっちゃんと同じく香川の生まれで、「手島」という小さな島にご家族のルーツがあるのだとか。

加奈代さんから最後のポイントをお聞きしているうちに、アスパラと貝の和え物が完成!

いりこをパウダー状にしたもので「いりこ味噌」を作り、それと絡めた一品。

これに林さんが燗酒としてオススメする「辨天娘」を合わせ、

林さんから料理といりこの関係についてお話を聞きながら、まず一献。

続いて、お出汁の飲み比べ。

ノーマルに取ったお出汁と、ある調味料を少しだけ加えたお出汁。

林さんいわく、和食の美味しさの一つは「品がある」ということ。

ではその「品」とは何か?

口に含めたあと、美味しいけれどスッと消えていく儚さやキレ。

これこそが、和食の「品」だと林さんは考えています。

昆布やかつおと違い、酸の成分が無いいりこ出汁で、そのキレをどう出すか…

考えた林さんは、ある調味料にたどり着きました。

これを少し加えるだけで、格段に味が澄む。

素人の私たちにもはっきりと違いのわかる、絶品のお出汁でした。

お昼の時間帯だから…と、林さんが作ってくださった「いりこと金柑のおいなりさん」。

いりこが色んな風に使われており、歯ごたえと旨み、金柑の風味が絶妙!

そして、今回のスペシャリテ「いりこ出汁のにゅうめん」。

林さんのお店で、シメの一品として多くのお客さんから熱望されているメニューです。

小豆島の手延べ麺、香川のいりこ、と瀬戸内のすべてが凝縮された珠玉の一品。

その美味しさに、皆さんしばし言葉を無くして味わっていました。

スペシャリテのうつわには、同じく瀬戸内・仁城逸景さんによる漆のお椀を合わせて。

最後は、おっちゃんと林さんへ、皆んなでざっくばらんに質問タイム。

「なんちゃない味」って、とても大切だなというお話が出ました。

どぎつい鮮明な美味しさではなくて、なんてことない(なんちゃない)、ふつうの美味しさ。

でも何日か経つと、また食べたいなと、ふと思う。

そんなやさしい力が、いりこにはあります。

(右から、おっちゃん・加奈代さん・林さん・林さんのスタッフさん。

スタッフさんは、アメリカで生まれ育ち、3ヶ月前に「てのしま」へ入社したばかり。

林さんが本当に楽しくポジティブな人で、いわゆる’修行’の重たい空気は一切ない職場なんです、

と笑う顔が印象的でした)

 

「いりこは近年、適正な獲り方や買い付け方をされてこなかった。

香川では、いりこは ‘もらうもの’。おっちゃんとこは高いなぁ、と買ってもらえない。

だけどうちは『へんこ』やから、大変でも自分らの手を使って、良いもんだけを出してます。

その背景を理解してくれるお客さんが増えていくことが、大事だなと思います」と、おっちゃん。

 

「日本料理は、技術も伝統も大事。

だけど型にはまりすぎて、本来の楽しみや良さを失ってしまいがちな業界です。

昆布とかつおのルールがどうこうより、美味しいいりこと出会えたから、それを使う。ただそれだけ。

日本料理はもっともっと変革していける!可能性が無限にあると思っています。」と、林さん。

 

作り手の思いと、偽りのないまっすぐな仕事から生まれた、いりこという「食」。

熱く、楽しく、美味しい3時間でした。

ご参加いただいた皆さま、そして「やまくに」のお二人、「てのしま」のお二人、

本当に素敵なご縁とお時間を、ありがとうございました。